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BY noriko niinuma | 2026-07-10 16:00:00 | Information, Diary

建築家にとって、「自邸」とはどんな存在なのでしょう。

私は、以前からそのことが気になっていました。
誰かのためではなく、自分自身の暮らしのためにつくる家。
だからこそ、新しい発見があるたびに、
「もっとこうしたい。」
「ここを変えてみたい。」
そんな終わりのない問いを抱えながら、少しずつ育てていく場所なのではないか、と。

デンマークへの買付では、毎回さまざまなご縁や出逢いがあります。
そして今回は、そのご縁から、以前から訪れてみたいと思っていたフィン・ユール邸へ足を運ぶことができました。
建築家であり、家具デザイナーでもあったフィン・ユール。さらに、暮らしの道具にまでデザインの視点を広げていった姿勢には、一貫した美意識が流れているように感じます。

この家は、1942年、フィン・ユールが自ら設計した住まいです。
その後も生涯を通して少しずつ手を加えながら暮らし続け、現在はオードルップゴー美術館の一部として
一般公開されています。

実際に歩いてみると、そこには「完成された作品」というよりも、一人の建築家が暮らしながら考え続けた
時間そのものが、静かに残されているように感じました。

あっ、サイン!
フィン・ユール邸は、この先です。


1942年、フィン・ユール30歳。
家具デザイナーとしてだけでなく、一人の建築家として、自ら設計した住まいがコペンハーゲン郊外に完成しました。
約50年にわたり暮らしたこの家は、家具・建築・庭が一体となった、フィン・ユールの思想そのものともいえる場所です。

1989年にフィン・ユールが亡くなった後も、この家では妻ハンネが暮らし続けました。
2003年にハンネが亡くなった後、邸宅はオードルップゴー美術館へ寄贈されます。
現在は、美術館に隣接する建物として、美術館の見学ルートの一部として公開されています。
家具だけでなく、「暮らしそのもの」が残された場所を歩くことができます。



まず迎えてくれたのは、青い椅子が置かれた緑あふれるエントランス。
緊張がほどけるような、小さいけれど包み込まれる空間でした。



まずは左へ。ドアをくぐると暖炉と大きな本棚があるリビング。
中庭へ大きく開かれた窓と、やさしいイエローの天井。




一つの部屋でありながら、さまざまな居場所と過ごし方が散りばめられていました。
「どこに座ろうか。」
その時々の過ごしたい時間を選ぶ。
そんな暮らしが自然に想像できる空間でした。


一度エントランスに戻って、次は右側へ。数段上がるだけなのに、空気が少し変わります。

ダイニング、独立した動線のキッチン、ゲストルーム、そして奥の寝室。
暮らしの中心から、少しずつプライベートな時間へと切り替わっていく印象を受けました。


チークの温かみと、壁や家具に使われた厳選された色彩。
どの部屋にも、その場所で過ごす時間に合わせた空気がつくられているようでした。


そして、奥の主寝室へとつながります。




主寝室には、あのグローブキャビネットがありました。
フィンユールが好きなチーク材と厳選された”色彩”の組み合わせが、各部屋・各コーナーごとに素敵で、見惚れてしまいます。
一度気づいてしまうと、各部屋の天井、本棚や壁のフチ、外観の一部にも、色彩が散りばめられています。



帰国してから、美術館で購入した専門書を開くと、そこには、フィン・ユール自身が描いた水彩の平面図が掲載されていました。


現地では、
「なんとなく心地いい。」
そう感じていた空間が、図面を見返すことで少しずつ言葉になっていきます。

家具を中心に考えた家ではなく、
どんな時間を過ごすのか。
その時間を中心に建築があり、家具があり、庭がありました。
その考え方に触れたとき、私たちがお店でお客様へ最初にお聞きしているのも、
「どんな家具を探していますか?」
ではなく、
「どんな時間を過ごしたいですか?」
という問いであることも、すっと馴染みました。

建築家にとって自邸とは、「完成させる場所」ではなく、暮らしながら考え続ける場所なのかもしれません。

完成を目指すことと、日々の暮らしの中で、過ごし方や時間の楽しみ方が少しずつ広がっていくこと。
その二つは、似ているようで少し違うものなのだと感じました。

専門書には、家具の配置が変わっている写真もいくつか掲載されています。
きっとフィン・ユール自身も、その時々の暮らしや時間に合わせて、住まいを楽しみながら育てていたのでしょう。

(全文英語なので、読破はまだまだ先になりそうですが……。)

フィン・ユール邸を歩いたことで、私自身も改めて感じました。
暮らしを楽しむこと。
時間を楽しむこと。
その答えは、一つではありません。

だからこそ、
「どんな時間を過ごしたいですか?」
という問いを大切にしてきた理由が、改めてすっと腑に落ちました。
フィン・ユール邸で感じたことを、これからのお店でも、一人ひとりのお客様との時間の中で大切にしていきたいと思います。

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